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龍炎の絆【後編】

龍炎の絆【前編】の続きです。

追記よりドウゾ→




龍炎の絆【後編】


※歴史パラレルストーリー



パリンッ。


不吉な音に顔を上げると、神棚に供えてある祭祀用の鏡にヒビが入っていた。


「これは・・・!」


生まれた時からこの国を正しい方向へと導く霊力を授かっていたはずの雪菜であったが、ここ最近は何故か濁ったような霧に覆われて、未来を正しく視ることが 出来ないでいた。 悶々とした想いを抱えていた所に、この兆しである。雪菜は言い知れぬ不安を覚えた。


こんな体たらくでは、いざと言う時に兄様をお守りすることなどできるはずがない。 兄様に、この国に何か不吉な事が起こる前触れかもしれないというのに・・・!!


いつものお祈りの時間はとうに過ぎていたが、雪菜はまんじりともせず何時間もその場を動かなかった。


(この国を造りたもうた我らが神よ、そこにおわすのならば、私の命と引き換えにあなたのお声をお聞かせ下さい・・・!!)


ふいに、雪菜の眼前に強烈な眩い光が差し込んできた。
眩しいと思う間もなく、脳裏に光輝く文言が流れ込んでくる。



忌まわしき風、遥か北より吹きてこの太平の世に渦を作らん。
その北風は小土のみならず、彼方の黄土にまで吹き荒れる・・・。



これは、我が国だけでなく大陸をも巻き込む大きな異変の兆し。
「北」。もしや・・・。


「誰か!誰か兄様に・・・!!」


雪菜の鬼気迫る声に、奥に控えていた側女が飛んできた。祈りを捧げるための礼拝所には、普段は雪菜しか入れない。


「雪菜さま。そんなお声をあげられて、いかがなされました?」

「あぁ、早く!兄様にお知らせしなければ!!」





* * *





「く、蔵馬様!!一大事にございます・・・!!」


大陸からの使節団を無事に歓待し終え、港周辺は大陸へ帰還する船を見送る民衆たちで昨日は夜遅くまで盛り上がっていた。 ようやく落ち着きを取り戻した城内に、蔵馬付きの護衛団の一人である凍矢の逼迫した声が響いた。


いつもはどんな時でも冷静さを失わない彼なのだが、顔を強張らせながら慌てて蔵馬の足元に跪く。 切羽詰まった様子の凍矢に、皆の視線が注がれる。


「凍矢、何事だ。王の御前でその狼狽えようは何だ」

「申し訳御座いません!しかし、事態は一刻を争います!!」

「どういうことだ」

「み、港に癌陀羅藩の船が・・・!!」


息をつかぬ凍矢の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。


「な・・・まさか、癌陀羅藩による侵攻が?!」

「いえ、見かけは商船のようなのですが・・・しかし、一般人とは思えない身のこなしの者共がかなりの人数乗っているのは確かです」

「港には、まだ大勢の民衆達がいるのではないのか」

「それは私と幽助さまのお仲間達で、皆に避難指示を出しました。周辺には警護の者しかおりません」

「しかし、警護の者の人数もたかが知れている。これは由々しき事態ですぞ、王よ!すぐに応戦の用意を!!」


慌てふためく高官達が右往左往する中で、飛影は一言も発せずに身動き一つしないでいた。


(躯王女が言っていたのはこの事か。よりによって王女達が帰った次の日にやって来ようとは・・・!!)


凍矢に指示を出そうと蔵馬が口を開いた瞬間、凛とした通る声が下庫理に響いた。


「騒ぐな」


その声で、パニックになっていた皆が我に返った。
玉座には、背筋を伸ばし微動だにしない凛々しい若き王の姿が。


「凍矢。今すぐ配下の者を伴い癌陀羅藩の使者の迎えを。南殿へとお通ししろ」

「王!この城内に招き入れるというのですか!!彼奴らはこの国を手に入れようとする賊そのものですぞ!!」

「奴らの目的はこの国ではない。この国を支配して、あわよくば甚大なる資源を誇る大陸の一部を掠め取ろうというのだ」


王の言葉に、皆が息を飲んだ。
この少年のような若い未熟な王が、複雑な国家間の情勢を瞬時に把握しておられるとは・・・。


燃え上がるような朱い瞳は、まっすぐに前だけを見つめていた。


「よいか。反抗するような態度を微塵も感じさせてはならん」


・・・我が国を、二度と焼土にしてはならない。


その言葉に、一同の心は結束した。





* * *





「王よ、ひとまず南殿の鎖之間に使者を招き入れるよう手配して御座います」

「裏に御座楽を控えさせ、歓待の用意をさせております」

「しばらく逗留する場合に備えての準備も、たった今完了致して御座います」


家臣の報告に小さく頷くだけで、飛影は特に慌てた様子もない。 このような有事の際の対処方法は、小さい頃から飛影は何度も叩きこまれてきているのだ。


『王たるもの、常に慌てず、見失わず。正しく状況を見つめ、最悪を常に想定して行動すべし』


蔵馬は長年地道に教え込んできた成果が手に取る様に分かって安心する一方で、拭いきれぬ不安にも襲われていた。


まるで、我が国のみならず百足国の動きまで全て読んでいるかのような、癌陀羅藩の動向。 油断出来ない。何か、こちらが見落としている大きな物が潜んでいるような気がしてならない。


「蔵馬様、大変です!!」

「どうした、お前は凍矢たちと共に迎えに出たのではなかったのか」


息堰切って蔵馬達の元へと駆けて着た凍矢の配下の者に、皆が群がる。


「いえ、凍矢さまがこれだけは報告に上がれと・・・私だけが、先に」

「言え。直答を許す。何があった」


王による直々の問いに憶しながらも、その者は勇気を振り絞って声を上げた。


「とんでも無い事が・・・奴ら、騎馬のまま漏刻門を通過しました!!」

「な、なんだと・・・!!」





* * *





正殿内の御庭には王を筆頭に場内にいる役人、高官全てが勢ぞろいし、招かれざる客を迎え入れようとしていた。


王と百足国の王族しか通ることの許されない最後の門である奉神門の中央をくぐり、こちらへと向かってくる一団を皆息を詰めて見守っていた。


「奴ら、下馬もせずに奉神門までをもくぐりやがる・・・!!」

「自分達の方が上位であると見せつけておるのだ。おこがましいにも程がある!!」


誇りと愛国心を踏みにじられ、控えの者達はいきり立っていた。
それを諌めるように目線で諭すと、蔵馬は飛影の側近く寄りそっと耳打ちをした。


「王よ。ここは我慢どころです。決して奴らの挑発に乗ってはなりません」

「フン。誰に対して物を言っている」


こんな時のために、お前には何度もしつこく学ばされたんだからな。

前を見据えたまま居丈高な飛影の様子に、蔵馬は誰にも気付かれないように小さく笑った。 さすが、オレの王。このような非常事態にも、憶することなく堂々としておられる。


「来たぞ。先頭はどんな奴だ」

「騎馬の中に籠に乗った者が一人おります。黒髪で、見たところかなり長身のようで・・・」


なぜか途中で言葉を切った蔵馬に、初めて飛影は視線を向けた。


見れば、いつも飄々として感情を表に出さない蔵馬が目を見開いて絶句している。 あの蔵馬が、何をそんなに驚く事があると言うのだ・・・?


「どうした。何があった」


二の句が告げられない蔵馬の目の前に、仰々しく籠が下ろされた。


籠から降りてくるその者は、どうやら盲(めしい)のようである。 杖も使わずに籠から降りると、大柄な男は王の眼前で恭しく膝を折り、低く朗々とした声を発した。


「これはこれは国王自らのお出迎え、この黄泉身に余る光栄に御座います」


黄泉と名乗ったその男は、王に向かって頭を深々と下げた。





* * *





「・・・馬、蔵馬!聞いているのか」


飛影の呼ぶ声に、蔵馬はようやく我に返った。


唐突な癌陀羅藩からの先制攻撃とも言える訪問に異様に張り詰めていた城内も、今はシンと静まり返っている。 驚くほどあっさりと引き下がった癌陀羅藩がこれで終わる訳が無いと言う事を、皆骨身に感じていた。


「申し訳ありません。王よ、いかがされました?」

「もう寝ると言っている。耳はちゃんと付いているのか?」


王衣を脱ぎ夜着に召し変えた飛影は、寝床に腰掛けて行燈に灯る明りを眺めていた。 飛影の側へと寄ると、蔵馬は跪き飛影の履き物を脱がせた。


「今日は本当に御立派で御座いました。まさかのあんな事態にも、王は非常に落ち着いておられた」

「『王たるもの、常に慌てず、見失わず』だろ。お前がウンザリするほど繰り返してきたからな」

「これからの我が国にとっては由々しき状況ではありますが、今日ほどこの蔵馬、鼻が高かったことはありませんよ」


誇らしげに微笑む蔵馬に、飛影は怒ったように顔を背けるだけだった。
蔵馬が布団をそっと掛けても、飛影は黙ったままだった。


「では、王よ。今日はゆっくりお休みになって下さい。これからの事はまた明日に・・・」


夜の挨拶をしようとした蔵馬の手を、飛影は引きとめた。

皆の前で見せていたあの雄々しい王はそこにはおらず、今はただ頼りなげに蔵馬を見上げている。


「どうかなさいましたか?」

「・・・どうもしない。・・・が」


今夜は、寝るまでそこに居ろ。


その小さく呟くような声に、蔵馬は小さく微笑んで従った。 これから先、このような穏やかな夜は当分やって来ないだろうから。 ・・・今日ぐらいは、側についてあげたい。


飛影の手を取ると、蔵馬は寝床に寄り沿いその手を握り返した。


「今夜だけですよ。大目に見るのは」

「・・・いい。明日からは大変な事になるだろうからな」


今夜ぐらいは、楽しかったあの頃のように・・・。言葉にはしなくても、二人は同じ気持ちだった。


ジジ、と蝋燭の燃えゆく音が、闇を包む。


「・・・蔵馬」

「何でしょうか」

「お前、あいつと知り合いなんだな」


飛影のストレートな問いに、蔵馬は息を飲んだ。
王に隠し事は許されない。・・・だが、全てを話す訳にはいかない。


「ええ・・・。古い知り合いです」

「何故そんなヤツが、癌陀羅藩の家老に?」

「その経緯は、私も詳しくは。ただ・・・」

「ただ、何だ?」

「とにかく、油断のならない相手であることは確かです。王よ、くれぐれも油断してはなりません」

「気を付けるも何も、その時はお前が俺を守るんだろう?」


飛影の言葉に、蔵馬は胸が熱くなった。

そうだ。王を守るのはこのオレだ。王を、飛影を守るためならオレは何にだってなれるのだから・・・。


黙ってしまった蔵馬の手を、飛影が握り返してくる。


「・・・王?」

「俺の側に居ろ。離れるな」


これは・・・命令だ。
飛影は朱い大きな瞳で、蔵馬をじっと見つめた。


「もちろん。この命を賭しても、王を守り抜いてみせます」

「『王』じゃない。何度言えば分かる」


お前は、いつだって俺の言う事なんか聞きやしない。
拗ねたような飛影の言葉尻に、蔵馬は優しく微笑んだ。


「飛影・・・オレはいつでも、あなたの側に」

「・・・蔵馬、命令だぞ・・・」


小さくなっていく飛影の声を、蔵馬は側で寄り添いながらじっと聞いていた。 スゥスゥ、と寝息を立て始めた飛影の側で、蔵馬はある決意をしていた。


黄泉め・・・。あいつがこのまま、大人しくしているはずがない。
やはりあの時、殺しておくべきだったのに・・・!!





* * *





それは鎖之間での盛大な歓待の宴が終わった直後の事だった。港へと戻る準備をしている藩の使者達が動き回っているさ中、 黄泉は音もなく蔵馬の側と近寄って来た。


「蔵馬、久方ぶりだな」

「黄泉・・・なぜお前が」

「なぜって、お前が分からない訳はないだろう」


お前は、私から光を奪った。その借りは、必ず返させてもらう。
そう言って不敵に笑う黄泉を、蔵馬は忌々しげに睨みつけた。


「この私にそんな態度をとってもいいのか?」

「どういう意味だ」

「この国の行く末は、お前が握っているということだ」

「何だと・・・」

「癌陀羅へ来い、蔵馬」


黄泉の思いもよらぬ言葉に、目を剥く蔵馬。


「お前が私の配下となって仕えてくれるのならば、この国に手を出すのをやめてやろうと言うのだ。悪い話ではあるまい?」

「・・・何が狙いだ」


ハハハ、と高笑いをする黄泉を、蔵馬は訝しげに見上げていた。

こいつ、何を考えている・・・?


「お前がこの国を見限って、これからは私の役に立つと言えばいい。簡単な話だ」

「オレがそんな事を言うとでも・・・!!」

「お前の胸ひとつで、この国を救えるのだぞ?」


しばらくの間、互いの睨み合いが続いた。


「・・・考えさせてくれ」

「いいだろう。だが、お前は必ず私の元に来る」


待っているぞ、蔵馬・・・。





* * *






寝入ってしまった飛影の手を、蔵馬はじっと見つめていた。
まだ、こんなにも頼りない小さな手なのに。


皆の前では王らしく振る舞い威厳を保っていた彼も、オレの前では素の自分を見せてくれる。 それが自分だけの特権だと言う事を、蔵馬は心底誇りに思っていた。


この手を、何があっても守り抜いてみせる。


その為には、オレはオレの出来る事をやらなくては。 飛影の側を離れるのは断腸の思いだが、飛影をあの黄泉の手から守るにはこれしかない。


飛影の手の甲にそっと口づけると、ぎゅっとその手を握りしめた。


「必ず、必ず戻って来る。どうか、少しの間だけ、許してくれ・・・飛影」


蔵馬は小さく呟くと、王の寝所から去って行った。
遠ざかる足音に、寝所の中の小さな溜め息はかき消された。


「・・・嘘吐きが」



時代の波が、彼らの運命を掻き乱す。
戦乱の世を綴る果てしないこの物語は、まだ始まったばかりである。




<終>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

*鎖之間(さすのま)=普段は王子達の控え所で、賓客をもてなす場所としても使用されていた。

*御座楽(うざがく)=王室専属の楽団。

*漏刻門(ろうこくもん)=正殿へ向かう第三の門。水時計が設置されていた事でこう呼ばれる。この門ではどんなに身分の高い者でも王に敬意を払い籠から降 りなければならない。

*奉神門(ほうしんもん)=王の居る正殿内へと入るための門。3つある門のうち、中央の門は王もしくは大陸からの冊封使(さっぽうし)などの限られた人し か通ることを許されなかった。


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